エンジニアがAIから仕事を奪い返すために|技術が一般化する中で価値を守る方法は?

コーディングの一般化が進む中、エンジニアの価値はどこへ向かうのか。Tableauトレーナーの経験とAIオーケストレーターという概念から、次のキャリア像を考えます。

April 6, 202616 min read

「エンジニアの仕事、AIに奪われるんですか?」

この問いを、ここ一年で何度も聞きました。同僚から、知人から、あるいは自分自身の中から。

正直に言うと、私はこの問いに対してしばらくの間、曖昧な答えしか出せていませんでした。「完全にはなくならないと思うけど、変わるとは思う」——そんな当たり障りのない言い方しかできなかった。

でも最近、少しだけ解像度が上がってきた気がしています。

ちなみに私は、エンジニアという職業の未来については、わりと悲観的に考えている方だと思います。「AIが来ても大丈夫、エンジニアの仕事はなくならない」という楽観論には、どこか乗り切れない部分がある。技術の流れを見ていると、「このままでいたら厳しくなる」という感覚の方がリアルです。

だからこそ、自分なりに考えてきました。

以下はあくまで、一エンジニアとして働く私個人の感想と考えをまとめたものです。一般的に認められた未来予測ではありませんし、エンジニアの未来はまだ誰にもわかりません。ただ、自分なりに考えを整理しておきたくて、書いてみました。


コーディングは、もうエンジニアだけのスキルじゃない

まず、現実から話しましょう。

AIがコードを書くようになっています。これはもう「将来の話」ではありません。Anthropicの社内では、コードの90%以上をClaudeが自動生成しているという話があります。開発の現場は、今まさに変わっている最中です。

一方で、ノーコード・ローコードツールの普及も止まりません。プログラミングの知識がなくても、業務ツールやシンプルなアプリを自分で作れる人が増えています。「エンジニアに頼まなくても、自分でなんとかなった」という体験をした非エンジニアは、確実に増えています。

この二つの流れが重なると、何が起きるか。

「コードを書く」という行為が、エンジニアだけの専門スキルではなくなっていく。誰でもある程度は作れる時代に、少しずつ近づいていると感じています。

実際に私の会社でも、時代の流れを痛感しています。エンジニアの私はほぼコードを書かなくなり、経営層の方々がClaudeを作って自分で業務改善ツールを作成するようになりました。

「じゃあ、エンジニアは何をしていけばよいのだろう?」。そう考えさせられているのは、私だけではないのではないでしょうか。


Tableauトレーナーの経験が、頭をよぎった

この流れを感じたとき、私の頭には一つの記憶がよみがえりました。

前職で「Tableau」というBIツールのトレーナーをしていたときのことです。Tableauは、プログラミングの知識がなくてもドラッグ&ドロップで綺麗なグラフや表(ダッシュボードと言います)を作りデータを分析することができるツールです。トレーニングを受けた受講者たちが、自分の業務に必要なものを自力で作っていく姿を、何度も目の当たりにしてきました。

ただ、一定の壁が存在することも知っていました。要件が複雑になったり、大規模なデータを扱うようになったり、業務上の重要度が高くなったりすると、「ここはプロに任せたい」となる。

「誰でもある程度は作れる。でも本格的なものにはプロが必要」——そういう二層構造が、自然と出来上がっていたんです。

ソフトウェア開発も、これと同じ道をたどるのではないか。そう思いました。

AIが普及して誰でも作れるようになれば、エンジニアの仕事はどんどん「高度なことだけ」に絞られていく。特別なスキルではなくなっていく。かつて専門的な計算や帳簿管理を担っていた職種が、ツールの普及で「誰でもある程度できる仕事」へと一般化していったように、エンジニアも同じ道を歩むかもしれない——そう感じていました。


でも、それは「DXの延長線上」で考えていたから

ここまでが、私の「一度目の結論」です。

ただ最近、この考え方には視野の狭さがあったかもしれない、と思うようになりました。

きっかけは、会社が動き始めたことです。これまで取り組んできた業務改善や効率化——つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)の延長ではなく、もっと大きな話が出始めた。組織全体の仕事の仕方や判断の仕組みをAIを中心に再設計する、いわゆるAX(AIトランスフォーメーション)という方向性です。

DXとAXは、似ているようで全然違います。

DXは「デジタルツールを使って業務を効率化する」こと。既存のプロセスを、テクノロジーで改善する取り組みです。AIを使ったとしても、あくまでツールとして活用する位置づけです。

AXはその先にある概念で、「AIを中心に置いて、組織の意思決定や価値創出の仕組みそのものを再設計する」ことです。効率化にとどまらず、「誰が何を判断するか」という構造自体を変えていく。

DXの視点でエンジニアの未来を考えれば、「一般化していく技術の波に埋もれていく」という結論になる。でも、AXという全社的な変革を見据えれば、話が変わってくるのではないかと感じています。


世界のトップはすでに「次の姿」を語っている

この視点の転換を後押ししたのが、AI企業のトップたちの発言でした。

Anthropic CEOのDario Amodeiは言っています。「私はもうコードを書かない。モデルに書かせ、自分はそれをレビュー・編集する作業をしている」と。世界最先端のAI企業のトップが、すでにコードを書くことをやめている。

OpenAIのSam Altmanは、AIエージェントが「労働力として企業に参加し、アウトプットを実質的に変える」と予測しています。

そして私が特に印象に残ったのが、GoogleのChrome Dev Relを務めるAddy Osmaniの言葉です。彼は「エンジニアは指揮者からオーケストレーターへ」という概念を提唱しています。

指揮者(Conductor)は、演奏者たちを前にして音楽を作り上げる存在。でもオーケストレーター(Orchestrator)は、そもそもどんな演奏者を揃えるか、どんな曲を演奏するか、どう組み合わせれば最高の音楽になるかを設計する存在です。

AIエージェントが「オーケストレーター」になる時代、エンジニアは「どんなAIをどう動かすか」を設計・管理する側に移っていく、ということです。

さらに、人材戦略企業のEightfold AIは「2026年の最重要職種はAIエージェント・オーケストレーション・スペシャリスト」と予測しています。この役割はすでに、仮説ではなく現実のものになりつつあるように見えます。


「AIオーケストレーター」とは何か

では、AIオーケストレーターというのは具体的にどういう仕事なのか。

一言で言えば、「複数のAIエージェントを設計・指揮・評価する人」です。

自分でコードを書くのではなく、「このタスクはどのAIに担当させるか」「どういう指示を出せば最善の結果が得られるか」「AIの出力をどう評価・修正するか」——そういった上流の判断を担う役割です。

実は私自身、最近の開発でこれに近い感覚を持ち始めています。

Claude Codeを使うとき、単一のセッションで「全部やって」と任せるのではなく、複数のセッションを立ち上げて役割を分担させることがあります。一つのセッションにはプロジェクトマネージャー的な役割を、別のセッションには品質管理を、また別のセッションには実装を担当させる。

そこで私がやっていることは、コードを書くことではありません。「どのAIに何をさせるか」を設計し、出力を評価し、全体の方向を判断することです。これがまさに、オーケストレーターという感覚に近いと思っています。

まだ小さなスケールではありますが、「AIを動かす設計者」としての役割は、すでに自分の仕事の中に入り込み始めています。


先にこの視点を持っておく意味

技術の一般化は、止められないと思っています。

コードを書けること、システムを構築できること——これらのスキルは、これからも価値を持ち続けるかもしれません。でも、「それだけ」では厳しくなっていく可能性が高いのではないでしょうか。AIが普及するほど、「コードを書くこと」の希少性は下がっていきます。

一方で、AIを束ねる設計力、複数のエージェントを適切に動かす判断力、組織全体のAX戦略を描く視野——こうしたスキルは、そう簡単には一般化しないのではないかと感じています。

そして私は、これをある意味で「AIから仕事を奪い返すこと」だと捉えています。

コードを書く仕事はAIに譲る。でも、AIを動かす設計の仕事は、自分のものにする。奪われたように見えて、実は一段上の場所に移っていく——そういうイメージです。受け身で「守る」のではなく、能動的に「取り返しに行く」という感覚の方が、個人的にはしっくりきます。

ここで大事なのは、「変化が来てから考える」のではなく、「変化の前に視点を持っておく」ことだと思っています。

Tableauが普及したとき、「自分でダッシュボードを作れるようになったユーザー」と「Tableauを使って複雑な設計ができるコンサルタント」は、同じツールを使いながら全く違う場所に立っていました。前者にとってTableauはゴールで、後者にとってTableauは手段だったからです。

AIも同じではないでしょうか。AIを「使うこと」をゴールにするか、AIを「動かす仕組みを設計すること」を次のゴールにするか。その視点の差が、数年後に大きな差になっていく気がしています。


おわりに

「エンジニアの仕事、AIに奪われるんですか?」

この問いへの私の答えは、今のところこうです。

「コードを書く仕事」は、一般化していくのではないかと考えています。でも、「AIを動かす設計の仕事」は、これから始まるのではないかと。

エンジニアの仕事がなくなるのではなく、仕事の中身が変わる。そして、その変化にいち早く気づいて動いた人が、次の場所に立てるのだと思っています。

私自身もまだ模索の途中です。でも、「AIオーケストレーター」という概念を知ってから、自分の仕事の見え方が少し変わりました。みなさんはどう思いますか?

keyaki. AI

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